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新連載『ひむか薬草ガイドブック』をこえて。
第1回目は、地域薬草本ができるまでを振り返りました。
この連載では、制作の過程で伝えきれなかった思いや、字数の制約で掲載できなかった内容、掲載を見送った記事、掲載をためらった薬効・用法など―。
本編に収めることのできなかった記事や思いに、もう一度光を当てていきます。
第2回は、「『ひむか薬草ガイドブック』とは何か」。
完成した本をあらためて眺めながら、
どのような一冊に仕上がったのかを考えてみたいと思います。
『ひむか薬草ガイドブック』とは何か
本編p.3~4「はじめに」にある通り、
『ひむか薬草ガイドブック』は、もともと地域振興のための一冊として企画されました。
日向に生える身近な薬草を知ってもらうこと。
地域に残る薬草文化を次の世代へ伝えること。
そして、日向市ならではの特色として、
郷土の歌人・若山牧水という文化資源と植物を結びつけること。
出発点にあったのは、あくまでも「日向市」という地域でした。
そのため、当初は『日向市有用植物ガイドブック(仮)』という名称で制作を進めていました。
ところが、長い時間をかけて160種の植物を一冊にまとめ、
完成した本をあらためて眺めてみると、
どうも「地域の薬草図鑑」というだけでは説明できない本になっていました。
『ひむか薬草ガイドブック』をひとことで表すなら、
若山牧水の短歌とともに、身近な薬草160種を学べる薬草図鑑です。
では、その「薬草図鑑」は、一般的な薬草図鑑と何が違うのでしょうか。
今回は、本書の「構造」から、その正体を考えてみます。
その構造を知ることは、
本書をより深く楽しむための「読み方」の案内にもなると思います。

「観察する人」のための図鑑
まず、本書の【植物解説】を開いてみてください。
【植物解説】を読むとき、実際に野外で植物に出会った場面を想像してみてください。
まず、どんな場所に生えているのかを見る。
次に、高さや草姿、樹冠など全体の姿を見る。
そして近づいて茎や葉を見て、花を観察し、季節が進めば果実を見る。
本書の植物解説は、おおむねこのような、
人が植物を観察するときの順序で組み立てられています。
さらに、単に形態を説明するだけではなく、
「ここを見れば、この植物だと分かる」
という識別のポイントも、できるだけ盛り込みました。
本書は、机の上で知識を得るためだけの図鑑ではありません。
実際の植物と本書の記述を照らし合わせてみてください。
「葉は本当にこうなっている」
「花は思っていたより小さい」
「確かにこんな場所に生えている」
自分の目で確かめた瞬間、文章として読んだ情報は、自分自身の経験に変わります。
ですから植物解説は、
「次にこの植物に出会ったら、どこを見ようか」
という気持ちで読んでみてください。
本書は「読む図鑑」であると同時に、
「観察する人」のための図鑑でもあります。

文学・植物・暮らし―三つの世界をつなぐ
一般的な植物図鑑は、植物の名前や分布、形態、分類などを知るための本です。
薬草図鑑になると、そこに薬効や利用法が加わります。
『ひむか薬草ガイドブック』も、もちろんその二つを大切にしています。
しかし、本書はそこで終わりません。
本書には、大きく分けて三つの領域があります。
文学・植物・暮らし
「文学」は、若山牧水の短歌。
「植物」は、生育環境や形態、見分け方などの植物そのものの情報。
「暮らし」は、薬草としての利用、食文化、民俗など、人と植物との関わりです。
つまり、植物そのもの、人の暮らし、そして人が自然を見て何を感じたのかまでを、一つの植物を中心につないでいます。
だから本書は、植物図鑑であり、薬草図鑑であり、地域文化の記録であり、文学の本でもあります。
ただし、それぞれを単純に一冊へ詰め込んだわけではありません。
一つの植物を中心として、三つの世界が静かに並び、それぞれの世界へ行き来できる。
そこに、本書が「単なる図鑑ではない」理由があります。


詠み、学び、実践する。
では、実際に一つの植物のページを開いてみましょう。
まず目に入るのは、植物の写真と牧水の短歌です。
ここが本書の入口です。
牧水は旅をし、歩きながら自然を見つめ、多くの歌を残しました。
そこには、季節とともに移り変わる植物の姿があります。
牧水が見ていた自然と、私たちが植物観察で見る自然は、決して遠く離れたものではありません。
そこで本書では、
詠む → 学ぶ → 実践する
という流れを大切にしました。
まず、牧水の短歌を詠み、
写真とともに植物のある季節や風景を感じる。
そこから植物の特徴や見分け方、薬効、食文化、民俗などを学ぶ。
そして、できれば本を持って外へ出てみる。
植物を探し、葉や花を実際に観察する。
さらに、記された食べ方や利用法について、
安全に十分配慮しながら、可能なものを体験してみる。
これが、本書でいう「実践」です。
そして実際の植物を見たあとで、もう一度牧水の短歌に戻ってみてください。
それまでとは少し違った風景が見えてくるかもしれません。
文学から植物へ。そして植物から、再び文学へ。
「詠み、学び、実践する。」は、
本書のキャッチコピーであると同時に、
本書そのものの読み方を表す言葉でもあります。

どこから読んでもよい
『ひむか薬草ガイドブック』には、決まった読み方はありません。
- 散歩中に見つけた植物を調べてもよい。
- 好きな牧水の短歌からページを開いてもよい。
- 薬草としての利用や食文化から興味を持ってもよい。
- 写真と短歌を眺めるだけでも構いません。
大切なのは、一つの入口から入ったあと、
少しだけその先へ進んでみることです。
- 短歌から入ったなら、その植物がどんな姿をしているのか見てみる。
- 植物から入ったなら、人々がどのように利用してきたのかを知る。
- 食文化から入ったなら、実際にどんな場所に生えているのか探してみる。
そして、実物の植物に出会ったら、もう一度そのページに戻ってみてください。
最初に読んだときとは、写真も解説も、牧水の短歌も少し違って見えるかもしれません。
本を読むことと、実際の自然を見ることを往復する。
その繰り返しの中で、本書は少しずつ自分自身の図鑑になっていきます。

完成して初めて見えてきた「この本の正体」
当初、私たちは地域振興につながる一冊を作ろうとしていました。
その目的は、完成した今も変わりません。
とりわけ、地域に伝わる薬草の使い方や食べ方は、誰かが意識して記録しなければ残りにくいものです。
その意味で本書は、地域の植物文化のアーカイブでもあります。
一方で、単に知識を記録するだけでなく、
「自分で見て、体験する」ところまでつなげるよう編集しました。
こうした「実践」の場として、本書はやくそう会主催「みんなの薬草観察会」でも公式テキストとして活用していく予定です。
完成した本をあらためて眺めてみると、
薬草図鑑、植物図鑑、文学、地域文化というそれぞれの世界が、一つの植物を中心につながっていることに気づきます。
そして、その世界をめぐるための道しるべが、
「詠み、学び、実践する。」
という本書のコンセプトです。
だから、この本の正体をあえて一言で表すなら、
「人と植物との関係を、もう一度つなぎ直すための本」
なのかもしれません。
本書を手にされたら、ぜひ本を持って外へ出てみてください。
そこから先にあるものこそ、『ひむか薬草ガイドブック』の続きなのだと思います。
連載『ひむか薬草ガイドブック』をこえて。
次回からは、読者限定記事として、本書を手にされた方と、その続きをたどっていきます。
本書の最終ページに記されたパスワードを入力のうえ、お楽しみください。


